津地方裁判所 平成4年(わ)122号 判決 1992年12月14日
主文
被告人を懲役四年六月に処する。
未決勾留日数中八〇日を右刑に算入する。
理由
(犯罪事実)
被告人は、
第一 平成三年四月一〇日午後零時ころ、窃盗の目的で、三重県鈴鹿市<番地略>のY方住居の無施錠の表玄関から屋内に侵入し、同所二階洋間からベランダの物干しに手をのばして同所に干してあったY'ほか一名所有のブラジャー、パンティ各一枚(時価合計二五〇〇円相当)を、更に、右二階洋間において、Y'所有の現金一万円を窃取した。
第二 同年一二月三一日午前二時ころ、就寝中の女性を覗き見る目的で、同市<番地略>のT(昭和四八年二月生)方居宅の無施錠の玄関から屋内に侵入し、奥六畳寝室内のベッドで就寝していた同女を認めるや、自己の性的欲求不満を解消させる目的で同女に強いてわいせつの行為をしようと企て、同女の口を手で塞いだうえ、逃れようとしてベッドから落ちた同女の背後より乳房を着衣の上から弄び、更に同女のパンティに手を差し入れてその陰部を弄び、強いてわいせつの行為をした。
第三 平成四年三月二七日午前一時ころ、第二の犯行の際に右Tに遺留した被告人所有の指輪を取り戻す目的で、右同女方居宅の台所横の窓のアルミ製の格子を引き剥がして同窓から屋内に侵入し、同女所有のコードレス電話機一台及び財布一個(時価合計約八〇〇〇円相当)を窃取した。
第四 同年七月五日午前零時ころ、同市<番地略>に居住するM(昭和三〇年五月生)にわいせつ行為をする目的で、同女方居宅台所窓のアルミ製格子を左右にねじ開けて同窓から屋内に侵入し、
一 同居宅六畳寝室内において就寝していた同女を認めるや、強いて同女を姦淫しようと企て、就寝前に飲んだ睡眠剤(ハルシオン)のため当時抵抗することが極めて困難な心身の状態にあった同女に対し、そのことを認識することなく、同女の口に所携のパンティを押し込み、その上からその口及び両目を覆うように頭部及び顔面に所携の布製粘着テープを巻き付け、更に同女の両手首を後手に同テープで緊縛する暴行を加え、そのため同女の反抗抑圧の状態をますます増大せしめたうえ、強いて同女を姦淫し、その際同女に対し、全治約一〇日間を要する口唇挫創、顔面・両手間節部外傷の傷害を負わせた。
二 同居宅南西側居屋内において、同女所有のパンティ二枚(時価合計約二〇〇〇円相当)並びに現金約二九万三五〇〇円及び自動車運転免許証など三二点(時価合計約一万円相当)在中の財布一個(約三万円相当)を窃取した。
(証拠)<省略>
(法令の適用)
罰条 第一の行為のうち住居侵入の点は平成三年法律第三一号による改正前の刑法一三〇条前段、同改正前の罰金等臨時措置法三条一項一号、第二及び第三の各行為のうち各住居侵入の点並びに第四の各行為のうち冒頭の住居侵入の点はいずれも刑法一三〇条前段、第一及び第三の各行為のうち窃盗の点及び第四の各行為のうち二の窃盗の点はいずれも同法二三五条、第二の各行為のうち強制わいせつの点は同法一七六条前段、第四の各行為のうち一の強姦致傷の点は同法一八一条、一七七条前段
牽連犯の処理 第一から第三の各行為につき、それぞれ同法五四条一項後段、一〇条(それぞれ窃盗、強制わいせつ、窃盗の罪の刑で処断)、第四の住居侵入と強姦致傷及び住居侵入と窃盗はそれぞれ同法五四条一項後段、一〇条(結局一罪として強姦致傷の罪の刑で処断、有期懲役刑選択)
併合罪加重 同法四五条前段、四七条本文、一〇条、一四条(第四の罪の刑に)
未決勾留日数の算入 同法二一条
(判示第四の一の罪についての補足説明)
被害者であるMは、睡眠剤を服用し、その効果によって、被害にあった際の記憶もとぎれとぎれであり、翌早朝においても、ようやく這って歩ける程度であり、被害当時抵抗することは極めて困難な状態であったものの、被告人は、そのことを認識せず、強いて姦淫を遂げるため、深夜就寝中のひとり暮らしの被害者に対し、前判示のとおり、粘着テープで猿ぐつわをかませ、その両手首を後手に緊縛するなど、一般人をして反抗を著しく困難ならしめるに足りる暴行を加えており、かつ右暴行によって被害者の反抗抑圧の状態をますます増大せしめたのであるから、判示第四の一につき強姦(既遂)致傷罪が成立すると解するのが相当である。
(量刑の理由)
本件各犯行は、判示第三の犯行を除き、いずれも被告人がそのとき交際していた女性が思うように付き合ってくれないことから、自己の性的欲求不満を解消するため安易に敢行された事案であり、動機に全く同情の余地はない。しかも、その態様は、当初は女性の下着を窃取するに止まっていたものが、しだいにエスカレートし、女性の居住していることをあらかじめ確認した上で、居室に侵入して就寝中の女性を襲い、特に、判示第四の犯行は凌虐といってよい形で姦淫を遂げており、その際、金品窃取に及ぶなど、極めて悪質であり、再犯の可能性も否定できない。本件各犯行により被った被害者らの精神的苦痛は大きく、被告人の刑事責任は重大である。他方、窃盗の点につき、被害金品が還付ないし弁償されていること、一部の被害者との間で示談が成立していること、強姦致傷については傷害が比較的軽微にとどまっていること、被告人が若年であること、本件で初めて身柄を拘束されたこともあって深く反省するに至っていることなどの事情も窺えるので、これらの事情を最大限考慮して量刑した。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官油田弘佑 裁判官中村謙二郎 裁判官並山恭子)